目次
チャールズ・デュヒッグが解明した習慣のメカニズム
習慣の4要素
デュヒッグは脳科学研究をもとに、すべての習慣は以下の要素で構成されると説明:
- きっかけ(Cue) – 脳を自動モードに切り替える引き金
- 欲求(Craving) – きっかけによって生まれる「〜したい」という渇望
- ルーチン(Routine) – 実際の行動パターン
- 報酬(Reward) – 脳がこのループを記憶する理由
きっかけの5つのカテゴリー
ほぼすべての「きっかけ」は以下の5つに分類される:
- 場所(どこにいたか)
- 時間(何時だったか)
- 心理状態(どんな気分だったか)
- 他の人々(誰が周りにいたか)
- 直前の行動(何をした直後か)
悪い習慣を良い習慣に変える「ゴールデンルール」
核心:きっかけと報酬は同じままで、ルーチンだけを変える
本書の成功事例:アルコール依存症の克服
デュヒッグは、アルコホーリクス・アノニマス(AA)の成功を分析:
- きっかけ:ストレス、孤独感、不安(変えない)
- 欲求:現実逃避、リラックスしたい(変えない)
- 旧ルーチン:飲酒
- 新ルーチン:AAミーティングに参加、仲間と話す
- 報酬:ストレス解消、つながりの感覚(同じ種類の報酬)
この方法で、多くの人が依存症を克服。同じ原理を経営者の習慣改善に応用できる。
経営者によくある悪い習慣の改善
ケース1:朝一番のメール地獄から戦略思考へ
現状の習慣分析:
- きっかけ:オフィスに到着、PCを開く
- 欲求:「仕事をコントロールしている感覚がほしい」
- ルーチン:メールを2-3時間処理
- 報酬:タスクをこなした達成感
習慣の置き換え:
- きっかけ:オフィスに到着、PCを開く(同じ)
- 欲求:「仕事をコントロールしている感覚がほしい」(同じ)
- 新ルーチン:最初の30分は第2領域課題(組織改革、新規事業構想など)に集中
- 報酬:より本質的な仕事をコントロールしている達成感(より質の高い同種の報酬)
ケース2:ストレス時の衝動的な意思決定を改善
現状の習慣分析:
- きっかけ:業績数字の悪化、プレッシャー
- 欲求:「すぐに何か手を打ちたい」
- ルーチン:即座に対策会議を招集、場当たり的な指示
- 報酬:行動している安心感
習慣の置き換え:
- きっかけ:業績数字の悪化、プレッシャー(同じ)
- 欲求:「すぐに何か手を打ちたい」(同じ)
- 新ルーチン:15分間の散歩後、根本原因を紙に書き出す
- 報酬:問題の本質に向き合っている実感(より建設的な安心感)
第2領域活動を習慣化する具体的ステップ
ステップ1:自分の心理的安全性を確保する
デュヒッグも強調するように、習慣改善には「失敗を恐れない環境」が不可欠:
- 完璧を求めない(週5日できなくても3日できれば成功)
- 習慣トラッカーをつけるが、×印は「失敗」でなく「学習データ」
- 自分へのセルフトークを変える:「また続かなかった」→「3日も続いた。次は4日を目指そう」
ステップ2:小さな第2領域習慣から始める
推奨する最初の習慣:「朝5分の戦略思考」
- きっかけ設計の例:
- 場所:社長室の特定の椅子
- 時間:朝8時(メールチェック前)
- 心理状態:コーヒーを飲んでリラックス
- 他の人々:一人の静かな時間
- 直前の行動:日経新聞の見出しチェック後
- 欲求を明確化:「日々の雑務に飲み込まれず、会社の未来を描きたい」
- 報酬の工夫:思考内容を1枚のメモに残し、月末に見返すと進化が見える
ステップ3:キーストーンハビット(要となる習慣)への発展
本書で紹介される「キーストーンハビット」の概念:一つの習慣が他の良い習慣を連鎖的に生む
経営者の例:週次振り返り習慣
元P&G CEOのA.G.ラフリーの事例(本書より):
- 毎週金曜午後、1週間の意思決定を振り返る習慣
- これが以下を連鎖的に生んだ:
- より慎重な意思決定
- 部下への権限委譲増加
- 長期視点での投資判断
習慣改善を成功させる心理的安全性の構築
自己への許可
- 「経営者も人間。完璧でなくていい」
- 小さな進歩を認める(0→1が最も困難)
- 後退も成長プロセスの一部
実践的なセーフティネット
- バックアッププラン:習慣が崩れた時の立て直し方を事前に決める
- 説明責任パートナー:信頼できる相手(メンター、コーチ)に進捗を共有
- 環境設計:第2領域活動をしやすい物理的環境を整える
まとめ:経営者が今日から始められること
- 現在の「悪い習慣」を一つ特定し、きっかけと報酬を分析する
- 同じきっかけと報酬で、ルーチンだけを第2領域活動に置き換える
- 最初は5分から。完璧を求めず、継続を重視
- 自分への心理的安全性を最優先に
デュヒッグが証明したように、習慣は変えられる。そして経営者の習慣が変われば、組織全体が変わる。まずは自分自身から始めることが、最も確実で効果的な組織変革の第一歩となる。